柔軟な血管と肌のハリにエラスチン

臓器や関節の弾力を保つアンチエイジングに必須な成分

輪千 浩史 著 2009.11.24 発行
ISBN 978-4-89295-803-8 C2177  文庫サイズ 48ページ 定価 275円(本体 250円)

アンチエイジングのカギを握るたんぱく質

柔軟な血管と肌のハリにエラスチン

 私がエラスチンの研究に着手したのは偶然からでした。もともと遺伝子の研究に興味があって薬科大学へ入学したのですが、卒論を書くために入った教室で、たまたまエラスチンの研究が行なわれていたのが、最初の出会いでした。
 そして、エラスチン研究がダイナミックに前進していた時期に約3年間、幸運にも、エラスチン研究で世界をリードしている米国のワシントン大学へ留学する機会を得ました。
 当時、同大の研究室では、開発されたばかりの「エラスチン遺伝子欠損マウス」が導入され、多方面からエラスチンの性質や働きを調べる実験が行なわれており、ここで学んだことはその後の私の大きな財産となっています。
 帰国したあと、日本でもそのマウスを使って研究したいとずっと考えていて、ついに2008年、私の勤務する大学に導入できました。
 世界でこのマウスをもっている施設はわずか数ヵ所で、日本では当教室が初めてです。飼育するのは大変ですが、このマウスを使えることは、エラスチン研究を大きく進歩させます。
 エラスチン遺伝子欠損マウスは、本文で説明するように、ホモタイプとヘテロタイプがあり、ホモタイプはエラスチンを体内で合成できないため、3日以内に死んでしまいます。エラスチンは生命活動に欠かせないたんぱく質だからです。
 一方、当研究室でもらい受けたヘテロタイプは、エラスチンの合成量が大幅に少ないものの、完全には失われていないので、ある程度の年齢まで生存します。しかし、健康なマウスにくらべて、老化の進み方が早かったり、病気にかかりやすいといった特徴がみられます。
 そうしたヘテロタイプのマウスにみられる特徴は、加齢によってエラスチンが減少している場合とよく似ています。そのため、老人性疾患の起こるしくみを解明するうえで、エラスチン遺伝子欠損マウスの研究はとても重要だと、私は考えています。
 しかし、エラスチンは、本文で説明するように、たんぱく質の中でも珍しい性質を備えた“天の邪鬼”な物質でもあります。そのため、普通に考えて、普通に研究しているだけでは答えがでてきません。常にどこかで普通とは違うことを一味でも二味でも入れていかないと、病気との関係性もなかなか浮かびあがってこないのです。
 そうした天の邪鬼なところに嫌気がさして、過去に何度もエラスチンの研究をやめようと思ったことがあります。ところが、他の成分に浮気をしかけると、必ずエラスチンの研究で新たな成果がでてきて、再び縒よりが戻り、気づけばもう年以上のつきあいになります。
 本書では、そんな長いつきあいの中で少しずつ見えてきたエラスチンの魅力と可能性について紹介しました。
 今後の高齢社会においてエラスチンは、アンチエイジングの素材、ひいては老人性疾患の予防と改善に役立つ素材として、最も注目される生体成分の1つとなっていくことでしょう。

 


結合組織とは何か

 エラスチン(Elastin)は、私たちの体の中にあるたんぱく質の一種です。体内では「結合組織」と呼ばれる部分に存在しています。
 まずは結合組織とは何か、というところから説明していきましょう。
 私たちの体は、細胞が集合した組織が組み合わさって各器官(臓器)を形作った構成になっています。
 そして組織は、4つに分けられます。皮膚の表皮や臓器の表面などの「上皮組織」、主に筋肉を構成する「筋組織」、全身に張り巡らされる神経の「神経組織」、体の構造を保持し支えている「結合組織」です。
 結合組織は正確には「支持組織」と呼ばれ、広い意味では軟骨や骨、血液、脂肪なども結合組織に分類されます。皮膚でいえば真皮〜皮下組織(脂肪)の部分に当たります。


目次



第1章 若さの源泉「エラスチン」
     結合組織の中に存在している
       結合組織とは何か
       細胞外マトリックス
       細胞の調整役
       エラスチンは「環境たんぱく」
     弾力を生み出す主成分
       弾性線維の構造
       エラスチン分子の集合体
       エラスチンの呼び名の由来
     コラーゲンとの関係
       両者のバランスが大切
       組織によって比率は異なる
     エラスチン研究の経緯
       研究が遅れた理由
       リー博士らの研究が転機に
       日本でも研究会が発足
     老化はエラスチン不足で起こる?
       50年で半減する?
       弾性線維を脅かす活性酸素
       活性酸素と老化の関係

第2章 素肌のアンチエイジングに
     お肌の曲がり角とエラスチン
       エラスチンは真皮にある
       20代後半から減少
     紫外線はエラスチンの大敵
       エラスチンの性状が変性
       紫外線はなぜ悪いのか
       糖たんぱく質にも異常が
     エラスチンで肌のハリが向上
       エラスチン食品の実験
     浅い傷の修復も助ける
       表皮の再生に関与

第3章 病気の予防にもエラスチン
     心臓や脳の血管を健康に保つ
       血管はエラスチンが豊富
       エラスチン減少のリスク
     肺の呼吸機能にも不可欠
       肺の収縮を調整
       慢性閉塞性肺疾患との関係
     高血圧の予防にも重要
       血圧に関与するしくみ
     アスリートや高齢者の足腰を守る
       関節と靭帯をサポート
     こんなところにもエラスチン

第4章 効果的な利用法Q&A
     Q・体内のエラスチンを増やすことはできる?
     Q・日常の食事でエラスチンを補給できる?
     Q・サプリメントやドリンク剤を選ぶ利点は?
     Q・エラスチンのサプリメントの原料は何?
     Q・エラスチンを増やす成分はほかにもある?
     Q・抗酸化力のある成分も補給したほうがいい?
     Q・エラスチン食品の効果的な摂取法はある?
     Q・エラスチンは皮膚に塗布しても効果がある?
     Q・食品としての安全性は問題ない?
     〈コラム〉医薬品素材としても期待される 



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