生活習慣病を予防する トマトのリコピン
トマトに多く含まれ、強力な抗酸化作用を発揮
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現在、私たち日本人の死因の上位を占めているのは、ガンや脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病です。これらの病気は、その名が示すとおり、ふだんの生活習慣が主な原因となって引き起こされます。
たとえば、ガン全体の約6割は喫煙と食習慣によるものと考えられます。従来、日本人には塩分の過剰摂取による胃ガンが多かったのですが、近年、大腸ガン、乳ガンが急増しています。これは、肉類を多く摂る欧米型の食習慣に近づいた結果、脂肪分を多量に摂取するようになったためです。
このように、食生活をはじめとする生活習慣は私たちの健康に直接、大きな影響を与えます。したがって、生活習慣を改善すれば、病気の予防も可能ということになります。
そこで、たとえば厚生労働省では、現在の日本人は野菜不足であることから、ガンなどの生活習慣病予防のために、充分量の野菜を毎日、摂取することを提唱しています。その中でも、とくに緑黄色野菜は予防効果が高いとしています。
最近の研究により、ガンや脳梗塞、心筋梗塞のほか、さまざまな病気を発症させる原因の一つが、活性酸素であることが分かってきました。活性酸素は、喫煙や食物中の発ガン物質などにより体内で発生します。しかし、緑黄色野菜に含まれるカロチノイドという化学物質が活性酸素を消去してくれるので、ガンなどを予防できるというわけです。
カロチノイドの活性酸素を消去する働き、つまり「抗酸化作用」についての研究の歴史はここ十数年間のことですが、研究対象の中心となってきたのはβ―カロチンでした。β―カロチンというカロチノイドはビタミンAの供給源としてもよく知られているので、この名前に馴染みのある方も多いことと思われます。
しかし、現在、このβ―カロチン以上に注目されているのが、本書で紹介するリコピンです。というのも、リコピンは野菜ではトマトに多く含まれているカロチノイドですが、このリコピンにβ―カロチン以上の強力な抗酸化作用のあることが確認されたからです。そのために、ガン予防などの観点から大きな期待が集まっているのです。私たちの研究グループが行なった実験でも、活性酸素を消去し、ガンの発生を抑制する作用のあることが確かめられました。
また海外では、トマトのガン予防効果に関して、大規模な疫学調査がいくつも実施されており、その結果はいずれも、トマトをたくさん食べている人ほどガンになりにくいというものでした。これらは、リコピンの効果によるものであることは言うまでもありません。
ちなみに、私たちは大腸発ガンの研究、次いでその予防の研究を続けてきました。前述の疫学調査をうけて、後に述べる実験的研究を行なって、リコピンの発ガン予防効果を証明することに成功しました。
このようにリコピンは、ガンなどの生活習慣病を予防するうえで、大きな働きをすることが分かっていますが、まだまだ知られていないのが実情です。本書が、そのようなリコピンへの理解を少しでも深めるきっかけとなれれば、大変うれしく思います。
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■ 成澤富雄(なりさわ とみお)■
老人保健施設くらかけの里施設長
秋田大学医療技術短期大学部名誉教授
1935年山形県生まれ。1961年東北大学医学部卒業。1966根同大学院修了。同年青森県立中央病院外科医員、1967年東北大学第一外科助手、1971年秋田大学第一外科講師、1978年同助教授。1991年秋田大学医療技術短期大学部看護学科教授、1996年同部長。2000年介護老人保健施設くらかけの里施設長、現在に至る。この間、1973〜75年アメリカ健康財団(ニューヨーク)研究員。専門は消化器外科、主研究領域は大腸癌の発生とその予防。
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