■ ハート出版のふるさとサイエンス文庫 ■
備長炭の神秘
環境を浄化し味を引き立てる炭の逸品
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炭焼きといえば斜陽産業の代表のように見られ、きつい、汚い、危険のいわゆる「3K」の仕事として敬遠されていました。炭自体も需要が年々落ち込み、これまでほそぼそと生産されていた状況でした。
ところが、近年、エネルギー確保や環境保全が叫ばれるようになって、木炭を見直す動きが起きてきました。
これは燃料としての用途のほか、木炭の持つ多くのすぐれた性質があらためて注目されるようになったからです。たとえば、その性質をあげてみると、(1)土壌の改良、(2)作物の成育促進、(3)減農薬、(4)汚水浄化、(5)家畜の肉質改良、(6)脱臭作用……等々に及んでいます。
ちっぽけなあの黒いかけらに、どうしてそのようなパワーが秘められているのか、だれしも不思議に思うでしょう。中でも、備長炭は「日本が生んだ木炭の傑作」とまで言われる木炭の最高級品です。私も備長炭を長年焼いて来て、そのパワー、不思議な効用には大変驚かされています。
ガスや電気が普及している現在、みなさんが炭を直接使う機会はほとんどないでしょう。しかし、「備長炭」でバーベキューをしたり、料理を作ると、ガスで焼くよりもひと味もふた味もおいしくなるのです。全国の「うまい!」といわれるうなぎ屋や焼き鳥屋にはかならずと言っていいほど「備長炭使用店」という看板がぶらさがっていることでしょう。
しかし、「備長炭」は、“料理の魔術師”としての効用だけではありません。おいしい水をつくったり、いやな臭いを消したり、お風呂に入れたり、ぐっすり眠れる枕にもなる……といった効果も確認されています。
私が強調したいのは、生活上の効果だけではなく、エネルギー確保や環境保護といった地球環境の面でも、木炭や備長炭は大きな役割を果たすということです。
本冊子は、その“小さな炭の大きな秘密”に迫ろうと発行されたものです。本冊子を通して、「備長炭」はじめ木炭、炭の素晴らしさを知っていただくきっかけになれば幸いです。
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■ 木下伊吉(きのした いきち) ■
1917年和歌山県生まれ。代々炭焼き稼業の家に育つ。1939年から7年間、戦争で中国戦線に参加。帰国後48年から72年まで農業協同組合に勤務。備長炭づくりと研究に取り組む。65年から紀州備長炭保存会、和歌山県木炭協会、西牟婁木炭協会、和歌山県木炭移出協議会の各理事を歴任。現在、田辺市木炭生産者組合長。77年、昭和天皇、皇后両陛下に製炭作業を披露。著書に「紀州備長炭の歩み」などがある。
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