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■ ミニ健康書籍 ふるさと文庫 ■


柔軟な血管のハリ
エラスチン


臓器や関節の弾力を保つアンチエイジングに必須な成分

 

アンチエイジングのカギを握るたんぱく質

柔軟な血管と肌のハリにエラスチン

 私がエラスチンの研究に着手したのは偶然からでした。もともと遺伝子の研究に興味があって薬科大学へ入学したのですが、卒論を書くために入った教室で、たまたまエラスチンの研究が行なわれていたのが、最初の出会いでした。
 そして、エラスチン研究がダイナミックに前進していた時期に約3年間、幸運にも、エラスチン研究で世界をリードしている米国のワシントン大学へ留学する機会を得ました。
 当時、同大の研究室では、開発されたばかりの「エラスチン遺伝子欠損マウス」が導入され、多方面からエラスチンの性質や働きを調べる実験が行なわれており、ここで学んだことはその後の私の大きな財産となっています。
 帰国したあと、日本でもそのマウスを使って研究したいとずっと考えていて、ついに2008年、私の勤務する大学に導入できました。
 世界でこのマウスをもっている施設はわずか数ヵ所で、日本では当教室が初めてです。飼育するのは大変ですが、このマウスを使えることは、エラスチン研究を大きく進歩させます。
 エラスチン遺伝子欠損マウスは、本文で説明するように、ホモタイプとヘテロタイプがあり、ホモタイプはエラスチンを体内で合成できないため、3日以内に死んでしまいます。エラスチンは生命活動に欠かせないたんぱく質だからです。
 一方、当研究室でもらい受けたヘテロタイプは、エラスチンの合成量が大幅に少ないものの、完全には失われていないので、ある程度の年齢まで生存します。しかし、健康なマウスにくらべて、老化の進み方が早かったり、病気にかかりやすいといった特徴がみられます。
 そうしたヘテロタイプのマウスにみられる特徴は、加齢によってエラスチンが減少している場合とよく似ています。そのため、老人性疾患の起こるしくみを解明するうえで、エラスチン遺伝子欠損マウスの研究はとても重要だと、私は考えています。
 しかし、エラスチンは、本文で説明するように、たんぱく質の中でも珍しい性質を備えた“天の邪鬼”な物質でもあります。そのため、普通に考えて、普通に研究しているだけでは答えがでてきません。常にどこかで普通とは違うことを一味でも二味でも入れていかないと、病気との関係性もなかなか浮かびあがってこないのです。
 そうした天の邪鬼なところに嫌気がさして、過去に何度もエラスチンの研究をやめようと思ったことがあります。ところが、他の成分に浮気をしかけると、必ずエラスチンの研究で新たな成果がでてきて、再び縒よりが戻り、気づけばもう年以上のつきあいになります。
 本書では、そんな長いつきあいの中で少しずつ見えてきたエラスチンの魅力と可能性について紹介しました。
 今後の高齢社会においてエラスチンは、アンチエイジングの素材、ひいては老人性疾患の予防と改善に役立つ素材として、最も注目される生体成分の1つとなっていくことでしょう。

 

 

結合組織とは何か

 エラスチン(Elastin)は、私たちの体の中にあるたんぱく質の一種です。体内では「結合組織」と呼ばれる部分に存在しています。
 まずは結合組織とは何か、というところから説明していきましょう。
 私たちの体は、細胞が集合した組織が組み合わさって各器官(臓器)を形作った構成になっています。
 そして組織は、4つに分けられます。皮膚の表皮や臓器の表面などの「上皮組織」、主に筋肉を構成する「筋組織」、全身に張り巡らされる神経の「神経組織」、体の構造を保持し支えている「結合組織」です。
 結合組織は正確には「支持組織」と呼ばれ、広い意味では軟骨や骨、血液、脂肪なども結合組織に分類されます。皮膚でいえば真皮〜皮下組織(脂肪)の部分に当たります。

 

著者

■ 輪千浩史(わち ひろし) ■

 


薬学博士 薬剤師
星薬科大学准教授
1967年神奈川県生まれ。91年星薬科大学薬学部衛生薬学科卒業、93年同大大学院薬学研究科修士課程修了(薬学修士)、96年同大大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博士)。99年同大助手、01年同大講師、05年同大助教授、07年同大准教授(臨床化学教室)となり、現在に至る。96年5月〜99年3月まで米国ミズーリ州ワシントン大学医学部へ留学。日本薬学会、日本結合組織学会(評議員)、日本分子生物学会、日本老年医学会、日本生化学会、日本エラスチン研究会(監事)、日本マトリックス研究会(運営委員)に所属。主な著作に「エラスチン−構造・機能・病理」(日本エラスチン研究会・共著・非売品)などがある。研究テーマ:弾性線維再生機構の解明、動脈疾患や肺疾患における弾性線維の機能解析、皮膚の光老化における弾性線維の代謝調節。00年星薬科大学大谷研究助成金受賞、04年財団法人コスメトロジー研究助成金受賞、04年日本結合組織学会学術賞優秀演題賞受賞、08年日本結合組織学会学術賞大高賞受賞、08年ラクトフェリンフォーラム賞受賞。

 

 

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