体の中の鉄のはたらき
貧血予防・意欲向上などに欠かせない微量栄養素
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鉄と人の関係は? と問われたら思い浮かべることは人さまざまでしょう。鉄器文明といった歴史を、溶鉱炉などの産業を、また身近な鍋、釜を連想する人も多いでしょう。なかには の元素記号が真っ先に浮かぶ理科系肌の人もおられるでしょう。しかし、健康との関係を挙げる人は少ないかもしれません。
鉄が、血液の構成成分であり、さらに血液中の赤い色素ヘモグロビンに含まれていて貧血とかかわるという医学的なことは、既に 世紀の文献に記載されていたようです。
鉄と貧血との関係には深いものがあります。私達は小さい頃から「牛やにわとりのレバー(肝臓)を食べなさい。そうしないと貧血になりますよ」などと親から注意されてきました。また、アメリカからのアニメで、『ポパイ』がほうれん草を食べるとたちまちにしてエネルギーがわいてきて、悪党をやっつけるのを見て大いに興奮したものでした。その力のもとは、ほうれん草には鉄がたくさんあるからだと教わりました。また最近では、ミネラルブームを反映して「鉄入りドリンク」や「鉄入りキャンディ」が若者達の間で人気となっているようです。このように鉄に関心が向けられているのは、ほとんどが“貧血の予防”を意図したものと思われます。
人の体の中の鉄は、血液中のヘモグロビンのみではありません。ヘモグロビンが運んできた酸素分子を受け取り、それを筋肉中などに蓄えるミオグロビンとよばれる「鉄タンパク質」があります。その他、私達の呼吸やエネルギーの産生、あるいは、薬の代謝などに関係する鉄を含む酵素やタンパク質など、大切な多くの種類の鉄を含む分子が知られています。
この小冊子では、体の中の鉄の役割を紹介します。そして、鉄は貧血のみならず神経の伝達にも欠かせないものであること、感染症と鉄の問題、食中毒の原因の一つであるサルモネラ菌と鉄欠乏の問題、そして私達の毎日の生活に対する意欲、運動能力あるいは学習能力や労働意欲が体の中の鉄と大いに関係があることなど、鉄をめぐる新しい問題点を紹介いたします。
高齢化社会をむかえた今日、老化が最もはっきりと現われる眼の水晶体中の鉄の量が低下することも分かっています。タンパク質・炭水化物・脂質の三大栄養素のみならず、鉄をはじめとした“微量栄養素”を、たえまなく補給することにも眼を向けなければならなくなっています。もちろん、取り過ぎは、かえって鉄過剰症などの不健康を生じる危険性があることも忘れてはいけないでしょう。
以上のような視点から、鉄についての正しい知識と認識を持っていただくことが、本冊子の目的です。健康な毎日を過ごしていただくために役立てていただければと思います。
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■ 桜井 弘(さくらい ひろし) ■
薬学博士
1942年京都市生まれ。京都大学薬学部製薬化学科卒業。同大学院薬学研究科博士課程修了。藤沢薬品工業梶A京都薬科大学講師、徳島大学薬学部助教授を経て、現在、京都薬科大学教授(代謝分析学教室)。専門は生物無機化学、生物錯体化学、ESR(電子スピン共鳴)分光学、微量分析学、薬物代謝学など。生体微量元素、金属タンパク質・金属酵素、金属を含む医薬品開発、活性酸素・フリーラジカルなどを研究の対象としている。著書に「金属は人体になぜ必要か」「ESRスペクトルの実際」「フリーラジカルとくすり」「生体微量元素」「バイオサイエンスESR(1・2)」、ふるさと文庫に
「体の中の鉄のはたらき」
「亜鉛は糖代謝・成長・味覚に必須のミネラル」
「微量でも驚異の貢献度各種ミネラルの働き」
など多数。
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