最近、新聞・雑誌の記事やテレビの番組で「ミネラル」という言葉がよくとりあげられています。例えば、「海水のミネラルにガン抑制作用」「糖尿病治療でも注目」あるいは「ミネラルは人体のコンダクター(指揮者)」などと、毎月のようにミネラルの大切さを訴える特集が紹介されています。
一体、このミネラルとは何なのでしょうか?
『広辞苑』によると、ミネラルとは――「1.鉱物。無機物。2.栄養素として生理作用に必要な微量元素の称。ふつう無機塩類の形で摂取される。カルシウム・鉄・亜鉛・コバルト・マンガンの類。」――と書かれています。ついでに、最近わが国でよく使われるようになったミネラルウォーターを見てみると、――「無機塩類を比較的多量に含んだ水。特に、飲料とするものをいう。」――となっています。これらからもおわかりのように、ミネラルとは無機物質のことを指しています。
この小冊子でとりあげる亜鉛は、そのミネラルの中の一つの物質、つまり「無機物質としての金属元素すなわち微量元素」とよばれる一群の物質の一つなのです。
ところで、亜鉛と聞いても、化学や理科の教科書で耳にするくらいで、あまりなじみのある物質ではありません。ある程度の年齢の方なら、鉄板の表面を亜鉛でメッキした金属“トタン”を連想されるかもしれません。それくらい身の回りでは縁の薄い物質なのですが、この亜鉛、実は意外に私たちの健康や病気と関係が深いのです。
亜鉛は、鉄についで豊富に私たちの全身に分布している金属元素です。最近の研究によると、亜鉛は不足、欠乏しやすく、そのため健康上さまざまな不都合が生じることがわかってきています。食べ物の味やにおいがわかりにくくなったり、記憶力が低下したり、あるいは皮膚炎が治りにくくなることなどが知られています。さらに興味深いことには、亜鉛はさまざまな生理作用を持っているばかりでなく、病気を治療するための「医薬品」としても開発され、積極的に使われているのです。
私たちの健康にとって、こんなに身近で重要であるにもかかわらず、亜鉛の大切さを紹介する記事や番組は極めて少ないようです。そこで、まだわが国では一般的にはよく知られていない亜鉛という金属元素に焦点をあてて、私たちの健康や病気との重要な関係について紹介することとしましょう。
目次
第1章 亜鉛不足はこんなにコワイ
亜鉛は体の成長に必要不可欠
不足は味覚などに異常をきたす
亜鉛なしでは生きていけない!
体にどれだけ必要なのか?
亜鉛を多く含む食品はコレ
〈コラム〉栄養液に加えられる金属元素
第2章 知っておこう亜鉛の基礎知識
亜鉛ってどんな元素なの?
亜鉛は体の中のどこにあるの?
各種酵素・タンパク質に存在
亜鉛の重要な生理作用
・細胞の代謝、成長を促す
・ホルモン作用の活性化
・糖や脂肪代謝を促し、食欲にも関係
・細胞膜を安定させる
・コラーゲンを合成し皮膚を新鮮に保つ
・中枢神経に作用し精神を安定にする
・免疫系に働き、病気の回復を促す
・ビタミンAの代謝を促す
・血中コレステロールを調節する
〈コラム〉亜鉛の宝庫「牡蠣」は冬季が旨い
第3章 これも亜鉛の新しい役割
鉄欠乏性貧血を改善する
DNAの転写など遺伝情報を伝達する
糖尿病や胃潰瘍の治療に役立つ
SODの構成員として老化を防止する
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