アメリカ北部湿地帯を原産とする小さな赤い果実のクランベリーは、日本ではあまりなじみはありませんが、最近、静かなブームになりつつあります。
クランベリーの特徴は、第一に腎盂腎炎や膀胱炎といった尿路感染症に対する有効性があげられます。尿路とは腎臓から尿管、膀胱そして尿道といった、尿が作られてから体外に出るまでの通り道のことを言います。尿路感染症は大腸菌などが尿路に侵入し、繁殖することが原因で発症します。そのほか、膀胱などの尿路にカテーテルを留置された方や、膀胱摘出後に尿路変更術を受けた方などにも多く発症します。
尿路感染に関係する多くの細菌は、中性からアルカリ性の環境で繁殖が盛んに行なわれますが、酸性の環境では逆に繁殖が抑えられます。クランベリーが尿路感染症に有効なのは、尿を酸性化して感染症の原因となる菌の繁殖をブロックしてくれるからです。それともう一つ大きな役割は、クランベリーに含まれるポリフェノールが細菌の尿路への付着を抑制することです。
また、尿路感染症の予防や改善に役立つばかりではなく、カテーテルを挿入したり、尿路変更の手術をした患者さんの尿臭が減ることや、尿路ストーマ周囲の皮膚炎が軽快するといった効果も報告されており、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)にも役立っています。
最近はクランベリーの研究も進み、新しい事実も明らかになっています。たとえば、クランベリージュースのポリフェノールを測定したところ、赤ワインに匹敵するほどの量が含まれていることが分かりました。ポリフェノールは、ご存じのように動脈硬化の予防で近年注目されている物質です。
このように、クランベリーは私たち研究者からみても大変将来性のある食品です。クランベリーを健康果実として普及させようと、「日本クランベリーマーケティング協議会」も設立されました。
本書は、今注目されつつあるクランベリーとはどのような果実なのか、なぜ体によいのかを、さまざまな研究データから簡略にまとめたものです。クランベリーの良さを多くの方々に知っていただければ、大変うれしく思います。
本書に使用したクランベリーの写真はすべて、株式会社キッコーマン・中嶋康彦氏の御厚意によるものです。
目次
第一章 赤くて酸味の強い果物
アメリカ北部の湿地帯が原産
古くより生薬として利用
第二章 クランベリーの優れた効き目
尿路に細菌が繁殖する尿路感染症
尿路感染症を抑えるメカニズム
クランベリーのキナ酸が効く
尿路上皮細胞への菌の付着を抑える
尿路変更術を受けた患者に朗報
クランベリーの新しい可能性
尿路結石の予防にも効果的
女性に多い悩みを解消
豊富なポリフェノールに注目
第三章 クランベリーの上手な摂り方
ジュースで飲むのが一番
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