私たちの住む地球の表面は、七割以上が海で占められています。三五億年前に生命 が誕生したといわれるその神秘の世界は、いまだ多くの謎と可能性に満ちています。
近年、その海の中から新たな発見がありました。海面下二〇〇メートル以深の、太 陽光の届かない暗黒の世界に、私たち人類の未来を担う膨大な資源が眠っていることが明らかになったのです。それが本書でとりあげる「海洋深層水」です。
海洋深層水は、私たちのよく知る表層の海水と違って、栄養物質が豊富で、水温が 低く、きわめて清浄という特性をもっています。こうした特性は、発電や冷房などのエネルギー資源として、あるいは魚介類の飼育・養殖、農作物の生産、食品製造、環 境保全、さらには健康・美容など、あらゆる分野で活用できる可能性が示されており、すでに一部で実用化が進んでいます。
海産物の消費量の多いわが国では、海洋深層水の基礎研究が本格的にスタートした 一九七〇年代後半より、特に水産分野で海洋深層水を利用する研究が進められてきました。
しかし、二、三年前から食品への利用が急速に進み、いまや海洋深層水利用食品が 続々と市場に登場しています。海洋深層水を食品製造に用いると、味や食感がよくなったり、食品の質の向上に役立つことが明らかになってきたからです。
また、海洋深層水利用食品の普及につれて、消費者の側からも思いがけない反応が 起こってきました。海洋深層水利用食品の摂取をはじめてから「体の調子がよくなった」という声が多く聞かれるようになったのです。
いまのところ、海洋深層水利用食品の製造・販売は、海洋深層水の取水施設がある 高知県内が主ですが、その健康効果がテレビや雑誌などでとりあげられる機会が増えたこともあり、全国から製造元へ問い合わせが相次いでいると聞きます。
現在、著者らは、そうした巷のうわさの真相を科学的な側面から検証すべく、海洋 深層水の効能(機能性)を探る研究を行なっています。
もちろん、海洋深層水はあくまで水なので、もしも何らかの効能があったとして も、それほど強いものではないと予想されます。しかし一方で、水はどのような食品 にも利用しやすいため、今後、多くの食品に海洋深層水が利用されるようになれば、 毎日でも一定量の海洋深層水が体の中に入ってくることになります。これは慎重に研究を進めなければなりません。
そこで本書では、特に海洋深層水の食品素材としての価値、そして健康効果につい て多くの頁を割き、紹介してあります。
海洋深層水の入門書として、本書をご利用いただければ幸いです。
ところで、私はここ十数年、魚介類に多く含まれる油(DHAやEPA)の効能を探る研究を続けてきました。その過程で、一緒に研究をしていた高知県工業技術センターから「油もいいけど、水の研究もやってみないか」とのおはなしをいただき、海洋深層水とのつきあいが始まりました。三年前のことです。
本来、水と油は相容れないものですが、双方とも“海由来”のものであり、効能に も共通した部分があることから、いつしか海洋深層水の魅力に取り憑かれてしまった次第です。
いずれにしろ、母なる海に眠る大いなる資源、海洋深層水は、二十一世紀の人類に 多大な恩恵をもたらすことは間違いないでしょう。
目次
第一章 海洋深層水とは何か?
暗黒の深海を流れるもう一つの海水
海洋深層水はどこで生まれるの?
海洋深層水の使い道は無限大!
注目の健康効果にも科学のメスが!
人と地球にやさしい循環型の資源
〈コラム〉日本で初の海洋深層水研究所
第二章 海洋深層水の三つの特性
富栄養――海の生命活動の源泉
低温安定――水温は年中9.5℃
清 浄――きれいで安全な水
〈コラム〉水産分野で海洋深層水は注目の的
第三章 健康と美容に効果あり
血液中のコレステロールを下げる
動脈硬化を抑え、心臓と脳を守る
アトピー性皮膚炎の解消にも役立つ
美肌づくりを助ける化粧水として
〈コラム〉健康効果についての今後の課題
第四章 深層水利用食品が続々登場
「味がまろやか」「口当たりがいい」
弾力性が高まる、発酵度が増す
付 録――海洋深層水利用食品等一覧
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