わが国は、いまや世界一の長寿国となっています。長寿がもたらされた要因はいろいろ考えられますが、特に注目されているのが日本の伝統的な食習慣、すなわち米、魚介類、大豆食品を主体とした「和食」です。
私自身、以前から和食の効用については多大な関心があり、これまでその代表的な素材の一つである「魚」の研究に長く携わってきました。そして実際に魚食が成人病対策にきわめて有効で、日本人の長寿にも深く関係していることを明らかにしてきました(拙著『DHAびっくりデータ』他参照)。魚の効用は奥が深く、現在もなお研究を続行中ですが、その過程で、和食のもう一つの代表的な素材である「大豆」の新しい効用を知る機会を得ました。
大豆は、昔から良質なたんぱく源として知られ、最近では、健康管理に有効な数々の特効成分を含むことでも話題になっています。しかし、いま国内外の研究者のあいだで、最も熱い視線がそそがれているのは、これまでまったく注目されることのなかった「イソフラボン」という成分です。
イソフラボンは、フラボノイドの一種で、大豆の“えぐ味”を生み出す原因物質として以前から知られていました。ところがつい最近、女性ホルモンと似た働きを示すことが明らかになり、更年期以降の女性の心強い味方として脚光を浴びはじめたのです。
更年期とは、月経が停止する「閉経」前後の数年間をいいます。この時期、多くの女性は心身にさまざまな不快症状をきたします。不定愁訴と呼ばれるものです。どれも閉経後10年もすればウソのように消えてしまう一過性の症状ですが、その間の本人の苦痛は大変なもので、中には外出さえ困難になる重症例も少なくないと聞きます。
また、そうした苦しい更年期を乗り越えて、諸症状からやっと解放されてもそのあとにはさらに深刻な問題が待っています。閉経を迎えると、それまで血管や骨を保護してきた女性ホルモンの分泌が激減します。すると、動脈硬化や骨粗鬆症が急速に進んで、脳卒中や心臓病といった生命をあやぶむ病気を引き起こしやすくなるのです。これらの病気は、ボケや寝たきりを招く最重要因子でもあります。
そうした更年期以降のトラブルを予防し解消し得る逸材として注目されているのが、大豆イソフラボンなのです。
じつは、大豆イソフラボンの効果は、すでに私たち日本人が身をもって経験していることでもあります。というのは、大豆をよく食べている日本女性は、大豆をほとんど食べない欧米女性に比べて、更年期の不定愁訴が軽く、閉経後の動脈硬化や骨粗鬆症の進行もゆるやかなことが、各国の研究で明らかにされているのです。
ただし、ここ30年ほどで日本の食生活はすっかり様変わりしました。欧米食の流入で、肝心の大豆食品も食卓で影のうすい存在になっています。こうした状況では、すでに欧米女性と日本女性の差はほとんどなくなっている可能性さえあります。
女性の場合、老後の生活をいかに豊かなものにするかは、更年期および閉経後の健康管理が重要なカギを握っています。超高齢化社会をまじかに控えた今、再度、伝統的な和食の価値を見直す必要がありそうです。
目次
第1章 女性のからだのしくみ
女性の一生はホルモンに支配される
更年期はからだの大変換期
閉経が「骨」に与えるダメージ
高齢女性は動脈硬化も進みやすい
乳がんと女性ホルモンの関係
閉経後も元気に過ごすための対策
第2章 大豆イソフラボンとは何か
大豆のえぐ味に秘められたパワー
主な働きは女性ホルモン様作用
活性酸素の害を抑える作用もある
欧米では大豆人気が沸騰中!
第3章 閉経後の病気にイソフラボン
日本人の骨折率が低い理由
大豆をよく食べる女性は骨が丈夫
イソフラボンで骨粗鬆症が抑制できた
高血圧・高脂血症の予防と解消に
大豆食で乳がんの発生率が半分に?
更年期のほてりの緩和にも有効
〈コラム〉沖縄の豆腐は超BIG
第4章 イソフラボンの上手な取り方
大豆食品のイソフラボン量を探る
日本人は一日どのくらい取っているか
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