私たちの体の機能は、食物を介して体内に取り込まれる栄養素の働きで維持されています。栄養素とは、炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ミネラル、ビタミンの五種類を指します。このどれが欠けても健康な生命活動は成り立ちません。
炭水化物とたんぱく質、脂質の三つは必要量が多いことから「三大栄養素」と呼ばれ、体を動かすエネルギー源としてもとても大切なものです。一方、必要量の少ない残りの栄養素は「微量栄養素」と呼ばれ、そのうちの無機質(主として有機化合物を構成する炭素・水素・酸素・窒素以外の元素)がミネラル、また有機化合物(生活機能をもつ物質)が本書の主題であるビタミンです。
ビタミンは、ほかの栄養素の働きを円滑に進めるのに必要不可欠な物質です。三大栄養素をエネルギーに変えるときに生じる種々の化学反応を助けるほか、たんぱく質や無機質を体の構成物質として使うときに補佐する役目も担っています。いわば、体の潤滑油といった役どころです。
微量栄養素ですから、ビタミンの必要量は多くてもせいぜい数十r。中には千分の一r(マイクロc=μg)単位で十分なものもあります。しかし、原則的に人体内では合成できない栄養素なので、随時、食物から補給していく必要があります。またビタミンは、不足すると体に障害が起こる必須成分として重要なほか、積極的にとることで各種疾患に対する薬理作用が期待できる場合もあります。
本書では、まず各ビタミンの栄養的な生理作用について紹介し、最後の第三章でビタミンの薬理作用を紹介していきます。
なお、薬理作用を期待する場合は、通常の必要量(栄養所要量)の一〇〜一〇〇倍のビタミンが必要となります。この量を満たすにはビタミン剤や栄養補助食品の利用が必須ですが、これらの誤用および乱用は恐ろしい過剰症を招く原因にもなるので十分な注意が必要です。食物以外のものからビタミンをとるときは、必ず医師の指導のもとで慎重に利用するようにしてください。
目次
栄養所要量と欠乏症
第1章 脂溶性ビタミンの働き
目と皮膚を健康に保つビタミンA
レチノールとベータカロテン
欠乏症/夜盲症、皮膚粘膜の角化
過剰症/レチノールの取りすぎは危険
骨を強くするビタミンD
欠乏症/くる病、骨軟化症
上手な取り方/日光浴も大切
過剰症/活性型ビタミンD剤には注意
老化防止に役立つビタミンE
欠乏症/筋肉・神経障害
止血と骨の強化に必要なビタミンK
基本的な働き/血液凝固と骨代謝
欠乏症/乳児の出血症
過剰症/溶血性貧血
第2章 水溶性ビタミンの働き
健康維持の補佐役ビタミンB群
ビタミンB1
欠乏症/脚気、ウェルニッケ脳症
ビタミンB2
欠乏症/皮膚、粘膜の炎症
ナイアシン
過剰症/血管拡張や顔の紅潮
ビタミンB6
葉酸
欠乏症/悪性貧血
ビタミンB12
欠乏症/悪性貧血
上手な取り方/菜食主義者は要注意
ビオチン
欠乏症/皮膚炎、成長阻害
パントテン酸
全身の組織の強化にビタミンC
基本的な働き/鉄分吸収促進
欠乏症/壊血病、骨形成不全
第3章 こんな病気にこのビタミン
ガン予防に有効なビタミンA、C、E
ビタミンAが細胞の変性を抑える
ビタミンCが発ガン物質の生成を防ぐ
動脈硬化の抑制にはCとEが有効
ビタミンCは血管壁を丈夫にする
ナイアシンの投与で血中脂質が減った
骨粗鬆症を防ぐビタミンD、K、C
骨粗鬆症の骨折は寝たきりの原因に
その他の症状に効くビタミン
高血圧
糖尿病性の神経障害
ぜんそく
風邪の予防
月経前症候群
乾癬
美容効果
〈コラム〉ビタミンのカプセル
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