炭焼きといえば斜陽産業の代表のように見られ、きつい、汚い、危険のいわゆる「3K」の仕事として敬遠されていました。炭自体も需要が年々落ち込み、これまでほそぼそと生産されていた状況でした。
ところが、近年、エネルギー確保や環境保全が叫ばれるようになって、木炭を見直す動きが起きてきました。
これは燃料としての用途のほか、木炭の持つ多くのすぐれた性質があらためて注目されるようになったからです。たとえば、その性質をあげてみると、(1)土壌の改良、(2)作物の成育促進、(3)減農薬、(4)汚水浄化、(5)家畜の肉質改良、(6)脱臭作用……等々に及んでいます。
ちっぽけなあの黒いかけらに、どうしてそのようなパワーが秘められているのか、だれしも不思議に思うでしょう。中でも、備長炭は「日本が生んだ木炭の傑作」とまで言われる木炭の最高級品です。私も備長炭を長年焼いて来て、そのパワー、不思議な効用には大変驚かされています。
ガスや電気が普及している現在、みなさんが炭を直接使う機会はほとんどないでしょう。しかし、「備長炭」でバーベキューをしたり、料理を作ると、ガスで焼くよりもひと味もふた味もおいしくなるのです。全国の「うまい!」といわれるうなぎ屋や焼き鳥屋にはかならずと言っていいほど「備長炭使用店」という看板がぶらさがっていることでしょう。
しかし、「備長炭」は、“料理の魔術師”としての効用だけではありません。おいしい水をつくったり、いやな臭いを消したり、お風呂に入れたり、ぐっすり眠れる枕にもなる……といった効果も確認されています。
私が強調したいのは、生活上の効果だけではなく、エネルギー確保や環境保護といった地球環境の面でも、木炭や備長炭は大きな役割を果たすということです。
本冊子は、その“小さな炭の大きな秘密”に迫ろうと発行されたものです。本冊子を通して、「備長炭」はじめ木炭、炭の素晴らしさを知っていただくきっかけになれば幸いです。
目次
〈コラム〉「備長炭」その名の由来
第1章 神秘の炭「備長炭」
「備長炭」は樫の木の蒸し焼き?
白炭の最高傑作「備長炭」
のこぎりでも切れない優れた炭質
〈コラム〉備長炭の楽器“炭琴”
第2章 備長炭の特性と活用法
水道水がおいしいミネラル水に
炭火で焼くと一流料亭の味になる
肉や魚がおいしく焼ける理由
全国の味の名人も備長炭に太鼓判
ご飯がふっくらおいしく炊ける
土壌改良剤としても注目される
備長炭風呂で温泉気分にひたる
そのほかのさまざまな活用法
第3章 備長炭の焼き方
よい炭はよい炭材からできる
備長炭の原木・ウバメガシとは
炭焼師の腕が作り出す
注目される木酢液
炭焼き産業の現状と将来
〈コラム〉火鉢のある生活
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