昔、といってもつい数十年前までは、日本のどこの家庭の食卓にもうめぼしの小さな壷が置かれてあって、ご飯のおかずやお茶うけに食べられていました。梅雨が終わるころには、お母さんやおばあちゃんがうめぼしづくりにとりかかるのも、どの家でも見られた家庭内行事のひとつでした。
手間のかかるうめぼしづくりが敬遠されがちなのは、忙しい現代では仕方のないことかも知れませんが、うめぼしの小壷まで消えつつあるとしたら、たいへん残念なことです。
ところで、あの敗戦後の耐乏生活から、すでに五十年が経ちます。科学の進歩発展、豊かな食生活、便利このうえない生活環境などは、一見私たちの健康に大いに役立っているように見えます。
しかし、果たして本当にそうでしょうか。一皮むいた内実は、薬漬け、美食という名の偏食、運動不足など……、健康どころか、ひよわな体の人たちが年々増えているのが現実です。
日頃の食生活にどこか欠陥があるのではないか、多くの人たちがそのことを意識しはじめるようになっています。そのあらわれが、数々の健康法や健康食品ブームといえるでしょう。
うめぼしは、レモンにも優る疲労回復効果をはじめ、整腸作用、食欲増進や夏バテ防止、殺菌効果などをもっています。また、カルシウムの吸収促進、二日酔いの防止、酸性になりがちな血液の浄化など、数多くの効果があります。
くわしくは本文にゆずりますが、私たちの先祖が一五〇〇年かけて会得し育んできたうめぼしの良さは、後世に伝えていく価値あるものです。そのためにも、それぞれの家庭で加工を楽しみながら、根気よくうめぼしを利用していただけたら、大変嬉しく思います。
目次
〈コラム〉うめの語源
第1章 梅と日本人
花を愛で、実を役立てる
うめぼしを育てた戦国武将たち
うめの名所ことはじめ
民間療法の王様
第2章 うめぼしで疲れしらずの体に
すっぱいけどアルカリ性食品
クエン酸の疲労回復力はすごい
唾液とすっぱさの関係
昔から証明されていた抗菌作用
第3章 成人病に効くクエン酸
動脈硬化を予防する
血圧をコントロールする
便秘と下痢を解消
免疫力を高め、ガンを予防する
肝臓の機能を高める
〈コラム〉うめぼしは日本代表食
第4章 うめの加工を楽しむ
自家製のうめぼしをつくろう
食前に梅酒を
梅肉エキスは効率的
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