肝障害、解熱、貧血に漢方の牛黄(ごおう)

微量で効く動物性の生薬で「六神丸」のコーディネーター

木村 正康 木村 郁子 著 2009.06.29 発行
ISBN 978-4-89295-801-4 C2177  文庫サイズ 48ページ 定価 275円(本体 250円)

“薬都”富山での半世紀にわたる研究生活

肝障害、解熱、貧血に漢方の牛黄

 私が富山大学薬学部へ赴任したのは、昭和33年のことです。その後、同大を退官したのちも、今日に至るまで半世紀以上にわたって富山に身を置き、研究を続けてきました。
 富山といえば「薬の都」として知られています。富山の売薬の歴史は古く、創業は江戸時代の元禄年間に遡ります。「使った分だけ、あとから料金を支払う」という先用後利≠フ配置薬システムは、貧しい人が多く、医薬品が不十分な時代から、全国の人々の保健衛生に寄与してきました。
 ところが、明治になってわが国は、近代化を推し進める中で医療改革を断行。長い歴史をもつ漢方医学を廃止し、西洋医学一辺倒に切り替えました。これにより、漢方薬を扱ってきた富山の薬売りは苦境に立たされたようですが、その火は絶えることなく、今日まで受け継がれています。
 現在も、日本の配置薬のおよそ半分は富山県で生産されているといわれています。富山の売薬が途絶えることなく続いてきたのは、長年にわたってコツコツと築いてきた利用者との信頼関係の賜物でしょう。富山の人は昔も今も堅実で、薬を売り歩くときも単に商売のためだけでなく、博愛精神を兼ね備えていたことは数々のエピソードとして残っています。
 たとえば、ある新聞記者が、人里離れた山深い地域の一軒家を訪れたとき、その神棚に富山の配置薬が置いてあったのを見て感激したといっていました。そこまでたどりつく労力と時間を考えると、商売的なメリットがあるとは到底思えません。それでも、その家の人のために配置薬を届けに行くのが富山の薬売りの心意気なのです。
 だからこそ、富山の薬売りはどこへ行っても親しまれ、全国に販路を広げることができたと考えられます。
 そうした富山の土壌は「薬学」を構築するうえでも最適でした。実際に、私が赴任してきた昭和30年代当時、すでに富山県の薬学は全国でトップを走っていました。富山大学はその象徴で、全国広しといえど、医学部より先行して薬学部を設置していた大学は、当時、富山大学だけでした。そのため、全国から優秀な学生が富山大学に集まってきて、私が赴任する以前から和漢薬資源の研究室が存在していました。
 とはいえ、日本における漢方医学は、古来の伝承に依存している部分が多く、富山の薬学もその域を脱していませんでした。
 そこで昭和38年、大学の学部内に和漢薬研究施設(のちの和漢薬研究所)を開設。自ら初代教授に就任し、富山県の伝統的な家庭薬(配置薬)の実際的な効能・効果について、私の専門である薬理学の側面から検証することにしました。本書で紹介する「牛黄」、そして牛黄を構成生薬とする「六神丸」の研究成果は、その代表的なものです。
 本書によって一人でも多くの人に漢方薬のすばらしさを実感していただき、漢方薬を正しく利用する手がかりとなれば幸甚です。

 


生薬は植物だけではない


 天然物を簡単に加工して作った医薬品を「生薬」といいます。
 わが国では、中国で使用されている生薬を「漢薬」、日本固有の生薬を「和薬」と呼び、両者をまとめて「和漢薬」と称してきました。
 本書ではわかりやすいように、漢薬と和薬、和漢薬をすべて「生薬」の呼び名で統一することにします。
 一般に、生薬というと、植物のイメージが強いと思います。私自身、漢方と最初に出会ったころ、生薬は草根木皮≠ノ限られると考えていました。
 しかし実際には、動物や鉱物を原料とした生薬がたくさんあります。
 たとえば、古代日本の生薬の使用状況は、奈良・東大寺の正倉院に保存された薬物から知ることができますが、その内訳をみると、植物性の生薬48・6%に対し、動物性と鉱物性生薬を合わせると51・4%にも達しています。
 現在、日本と中国で常用されている生薬をみても、2割程度は動物性と鉱物性の生薬で占められています。


目次



第1章 牛黄はどのような生薬か
     動物性の生薬は微量で効く
       生薬は植物だけではない
       動物性生薬は微量で効く
     牛黄は、牛の胆嚢にできた結石
       千頭に一頭の希少品
       こんな成分が含まれている
       産地別の牛黄の色の違い
     医薬品として日本薬局方にも収載
       薬理学的研究は60年代から開始

第2章 牛黄の基本的な作用
     胆汁の分泌を促す「利胆作用」
       「類をもって類を補う」
       胆汁が分泌されるしくみ
       胆汁うっ滞による症状
       牛黄は平滑筋に作用する
       胆石や肝障害の改善にも
     胃けいれん、腸けいれんも抑制
       消化管の異常収縮を鎮める
     こんな症状にも牛黄が効く
       【肝障害改善作用】
       【解熱作用】
       【貧血改善作用】
       【抗酸化作用】
     血圧を下げる効果は「ない」
       血圧に対する研究は混迷
       「血圧を下げる」は俗説

第3章 「六神丸」としての薬効
     漢方薬の醍醐味は「複合作用」
       削るのが新薬、加えるのが漢方
       陰陽のバランスを整える
     牛黄を配合した漢方薬「六神丸」
       明治以前に中国から岡山藩へ
       「雷氏方剤」が起源
       日本版「六神丸」の特徴
       六神丸に配合されている生薬
     六神丸は心臓を元気にする応急薬
       実験で強心効果を確認
       「蟾酥」とジギタリスの違い
     六神丸で動悸が改善
       近畿大学の臨床データ
     長期の服用では降圧効果も
       強心薬と比較した臨床データ
       長期投与でも循環系に好成績
     中国では「抗炎症」が中心
       中国と日本での利用の違い
       【第T期/血管透過性亢進】
       【第U期/白血球遊走、浸潤】
       【第V期/結合組織の増殖】
     歯痛の急場しのぎに
       六神丸の痛み止め作用
     〈コラム〉「ガマの油」売り口上

第4章 牛黄の効果的な利用法
     漢方薬を安全に利用する方法
       漢方薬にも副作用はある
       「薬は毒」と考える
       薬は最少量に抑える
       「毒」も生かすのが漢方流
     牛黄の効果的な利用法Q&A
       Q牛黄の補給源にはどのようなものがありますか?
       Q産地によって品質に差があるというのは本当?
       Q牛以外の動物の胆石でも、同じように効果がある?

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