EPAは、虚血性心疾患をはじめアレルギー疾患、大腸がん、糖尿病など、感染症以外のほとんどすべての病気に大きな効果を発揮します。これは決してEPAが万能薬だからではなく、現代人の大半がEPAの不足した状態にあるためです。
近ごろの病気の多くは、伝染病のように外から来るものではなく、自分自身が作り出す物質が元凶となっています。自分自身が作り出す物質とは、「エイコサノイド」と呼ばれるホルモン様の生理活性物質のことです。エイコサノイドは、ホルモンや細胞機能の調整に不可欠の物質ですが、ごく微量で大きな作用をもたらすため、何らかの原因で多くできてしまうと、体自体を障害し、先にあげたような病気の元凶に変身します。
エイコサノイドを増やす原因になるのが、リノール酸のとりすぎです。リノール酸をたくさんとると、エイコサノイドを作り出す原料(アラキドン酸)が体内に増えて、結果的にエイコサノイド産生の増大につながるのです。現在の日本人の大半は、リノール酸過剰の状態ですから、これではエイコサノイド関連の病気が増えて当然です。
そこでEPAの働きが重要になってきます。EPAは、リノール酸由来の大部分のエイコサノイドの産生を抑えるほか、その働きを阻害する作用もあって、細胞レベルからの健康回復に役立ちます。
かつて、EPAの豊富な魚をたくさん食べ、なおかつリノール酸の摂取量が少なかった時代の日本では、エイコサノイドが関わる病気の発生率は微々たるものでした。ところが近ごろは、リノール酸の摂取量が年々増大する一方で、EPAの摂取量は魚ばなれによって相対的に減っています。リノール酸の摂取量を減らすのが難しい現状では、EPAを積極的にとることが、エイコサノイド関連の病気を防ぐ最良の方法です。
本書では、そうした体内における細胞レベルでのEPAとエイコサノイドの攻防を、特に、虚血性心疾患を防ぐという観点から紹介していきます。
なお、本文中の個々のデータは、科学的評価に十分耐える国際レベルの研究だけを厳選し、そこから抽出しました。
目次
本文中の用語の予備知識
第1章 心臓を守る潤滑油「EPA」
・脂肪の「質」が大切
日本人の死因のトップは「血管障害」
動脈硬化=コレステロール?
・高脂肪食でも心臓が元気な理由
グリーンランド人の脂肪源は海産物
多価不飽和脂肪酸がキーワード
EPAがアラキドン酸の「悪さ」を抑制
海産物の脂肪が心臓を守った
・魚を毎日食べると寿命が五年延びる
週に3〜4回の魚食でも大きな効果が
魚食の頻度が少ないほど病気が増える
魚の「油」の効果を立証するデータ
ニトログリセリンの投与量が減少
EPA以外のn-3系にも同様の効果
・EPAは血管障害の抑制に役立つ
グリーンランド人は血管が若い
漁村の人々の血管は若い
・血中脂質を正常に保つ効果がある
高脂血症に魚油は本当に効くか?
長期投与で有効性が立証された
高n-3系食の効果は薬剤よりすごい!
動脈硬化の治療に新しい展望が
・血小板凝集を抑えて「血栓」を防ぐ
血小板の凝集能が過剰になると
魚油の投与で血小板凝集能が落ちた
EPAの摂取で出血しやすくなるか?
・血行をよくして動脈の負担を軽減
EPAは赤血球の変形能を高める
EPAの投与で血液がサラサラに
フィブリノーゲンの血中濃度も低下する
・心筋梗塞の死因になる不整脈の防止に
最も危険な不整脈「心室細動」
二重盲検法で魚油の効果が立証された
「心室性期外収縮」の予防にも有効
・PTCA後の再狭窄防止には効かない
これまでの研究成果を否定するデータが
第2章 EPAで現代病を一掃する
・アレルギー性疾患の予防と改善に
EPAは「抗原提示能」を抑制する
炎症の原因物質を減らす効果も
アトピー性皮膚炎の症状が改善された
気管支喘息にも有効?
・リウマチや腎炎などの慢性炎症にも
慢性関節リウマチの諸症状が軽減
魚油の投与で腎機能の低下が抑制された
慢性炎症性腸疾患にも有効
「乾癬」には効かないことが判明
・大腸がんと乳がんの予防に最適
発がんの促進にもアラキドン酸が関与
がんの増殖や転移を抑える効果も
大腸がんの重要な危険因子も魚油で減少
進行がんでみられる悪液質にも効果が?
・糖尿病の合併症対策に役立つ
糖尿病で深刻な動脈硬化を抑える
糖尿病性腎症の初期症状を抑える
神経障害の予防にも役立つ可能性が
・その他の病気に対するEPAの効果
閉塞性動脈硬化症
脳梗塞
骨粗鬆症
尿路結石
マラリア
呼吸器疾患
第3章 魚嫌いは自殺する!
・うつ病や敵意性との相関関係
EPAが高いほど鬱病の程度が軽い
躁鬱病では寛解期が延長
毎日魚を食べると自殺率が低い
17才問題のキレやすさの陰に
魚食と他殺件数に逆相関
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