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「漁師たちが釣道具をしまっておく小屋に、鮫の肝油を貯蔵しておくドラム罐があったが、老人はそこから毎日コップ1杯ずつ汲んで飲んだ。……おかげで、どんな風邪にも流感にもやられない。なにより眼にいい」
これはノーベル文学賞作家ヘミングウェイの小説『老人と海』にでてくる一文です。主人公の老いた漁夫の元気の源だったサメの肝油は、本書でこれから紹介するスクワレンの宝庫。
ヘミングウェイがスクワレンの存在を知っていたかどうかわかりませんが、サメの肝油の食効は、漁師のあいだではかなり古くから経験的に知られていたようです。
やがて内陸に住む人々にもその薬効が伝えられ、サメの肝油は世界各地で「万病に効く民間療法の妙薬」として珍重されてきました。そして近年になって科学的な側面から研究が進んだ結果、古人の知恵を裏づけるさまざまな機能が判明。現在、私たちが提唱する「マリンビタミン」の代表的な成分の1つとなっています。
例えば、血液をさらさらにして動脈硬化を防いだり、病気を退ける免疫力を高めたり、また体の酸素保持能力をアップする一方で、有毒な活性酸素に対してはそれを消去する方向に働くほか、環境中の汚染物質を体内から排出する「デトックス」効果のあることも確認されています。これらはどれも、生活習慣病を防ぐうえで欠かせない働きばかりです。
とくに、デトックス効果は、環境汚染が急速に進んでいる現代において大変注目されています。デトックスとは、アメリカでdetoxificationと呼ばれている概念で、簡単にいうと体のなかに溜まった「毒」を出す作用のことです。
20世紀の飛躍的な科学の進歩の陰で、さまざまな化学物質が生み出されました。ダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)、アスベスト(石綿)はその代表ですが、それらの化学物質の大半は分解されないため、環境中に広く霧散し、呼吸や食事を介して私たちの体内に取り込まれ、現在ではかなりの量が蓄積されていると考えられています。
このまま放っておけば、多くの人の体に悪影響が出てくることは明白です。では、具体的にどう対処したらよいのか。それを考えるのが、私の主要な研究テーマである「予防医学」という学問なのですが、予防医学には除去予防と化学予防の2つがあります。
除去予防は、危険なものを身の回りからすべて遠ざけて、体内に悪いものが入らないようバリアをはってしまう方法です。しかし実際のところ、環境汚染物質を完全に遮断して日常生活を送ることは不可能です。
そこで、環境中の有害物質が体内に入ってくることを前提として、その排出を促したり、体の解毒能力を高める方向に尽力しようというのが、もう1つの「化学予防」で、これはまさにデトックスと同じ概念です。
スクワレンは、体内に侵入した有害物質を巻き込んで、皮脂とともに排出する働きがあります。前記した他の作用も考え合わせると、スクワレンは、現代人にとってこのうえない頼もしい味方といえます。
深海から届いたこのすばらしい贈り物が、多くの人の健康長寿の達成に役立つことを心より願っています。
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